早起きのこつ



















覚醒間際の淡い微睡みの中で、最初に意識を刺激したのは温かいという感覚だった。

背を包みこむ温度は素肌に心地よく、目覚めを促す体躯を甘い眠りに引き戻して止まない。起きなければと自身を叱咤する反面、躯幹を満たす温もりに、後少しなどという誘惑が顕著に響いた。
先刻から目覚めと眠りの合間にある微睡みから抜け出せず、平素の朝よりも四肢が気怠く身動きするのも億劫で仕方がない。動きたくない、と、自身でも珍しく怠惰な気分に陥るのは、微睡みの恍惚だけが原因ではないと分かっている。

羽柴秀吉は、んんと溜息交じりに小さく唸って瞼をうっすらと開いた。全身に纏わりつく倦怠感の理由は、目を覚ますことを拒んだせいで引き起こされた感覚ではない。腰から下方に居残る鈍痛は、下肢を僅かでも動かせば淫らなこそばゆさを伴って脊髄を駆け上がってくる。しかし、判然としない意識下では、よく悩まされている痛みのことも失念してしまい、秀吉は爪先でもう片側の足の甲を掻こうとして途端、痩躯を引きつらせた。うっと思わず微かに唸って、痛みと痛みよりも質の悪いいやらしい感触に身を小刻みに震わせる。はぁ……っと大きく息を吐き、奥歯を噛み締めて、秀吉はそろりと腕を持ち上げ自身の口を手で覆った。

痛みのおかげと言うべきか、曖昧にかすみがかっていた意識はすっかり鮮明になり、自身が現在置かれている状況を確認しようと目線だけを忙しく移ろわせて周囲を見る。薄暗い室内に些少残留している体液のすえた臭いと、閉じられた障子戸の隙間から糸のように差しこむ細い白光、夜着を身につけていない自身の裸体、そして、眼前でくたりと横たわる大きなてのひらを見つけて、はっとした。ああ、そうじゃそうじゃと内心納得いって秀吉は口を塞いでいた手をそっと外す。
頭に触れる違和感にも気がつき、あっとほんの小さく声を上げた。てっきり枕だと思いこんでいた物体はひどく弾力があり、その癖ごつごつとして安定も悪く高さもちょうどいいとは言いがたかった。秀吉は自身の視線の先で畳の上に投げ出された手を熟視して感じていた違和の原因を理解する。こめかみを預けていたのは、どうやら枕でも床でもなく自身の背後で熟睡しているであろう人間の腕だったらしい、堅い筋肉から心臓に呼応して脈動する血液の極微小な振動と音が伝わってきた。長時間同じ箇所に頭を乗せていたせいか、こめかみに淡く疼痛がひらめき秀吉は眉根を寄せる。

そろそろ起き上がって、この部屋を抜け出さなければならないのだが、下手に身動きができない状況であると瞬時に悟っていた秀吉は、横臥の体勢を保ったまま目だけで後ろを顧みる。無論、目だけでは背後で寝ているであろう人物の様子は確認できるはずもなく、相手が既に起きているのか、まだ眠っているのかは分からない。もしも眠っているのならば、退室できる可能性はまだあった。だが、目覚めているのであれば、小姓の誰かが起こしに来るまで、今、自身が横たわる褥から逃れることは不可能に等しいと言っても過言ではなかった。
心中で、お休みであらせられますように……と祈りながら、静かに頭を持ち上げ、細心の注意を払ってゆっくりと上体だけを起こす。枕にしていた腕が動く気配はなく、安堵の溜息をついて、秀吉は頭を掻いた。

元結から解放された髪は乱れて絡まり、指で梳くと所々引っかかる。柔らかい髪は自身の肌にもくすぐったくまつわり、首筋や襟足がむずがゆくなって首をすくめた。昨夜脱がされ室内のいずこかに打ち捨てられた自身の小袖同様、解かれた元結も探し出さなければ首回りが落ち着かない。そわそわした空気を作ると背後の人物がほぼ確実に目を覚ますだろうことは、今までの経験から熟知していたので、秀吉としては一刻も早く、一糸も身につけていない痩躯に着るもの、或いは、首をくすぐる髪をまとめ上げる紐が欲しかった。

自分とは違い、周囲の変化に過敏なその人物は熟睡中であろうと些細なことですぐに起きる。起きれば起きたで構わないとは思う。自分に退室を促してくれるならば、の話だが。しかし、大抵の場合、悪どい手管で引き留められるのが落ちだった。引き留めることも秀吉として多少は構わない。構わないのだが、そういった場面を小姓や侍従などの他人に目撃されることは極力避けたかった。

何しろ、恥ずかしいのである。

その人物と自分のらしからぬ戯れを目撃した小姓は、後日顔を合わせても秀吉を見る時にどことなく気まずそうに、恥ずかしげに頬を赤らめる。他人に意識されると、どうとも思っていなかった秀吉の方こそ、ひどく羞恥を煽られていたたまれないことこの上ない。
盗っ人よろしく、布団の衣擦れさえ聞こえないよう、注意深く鷹揚に起こした上体の方向を変えて俯せになり、下肢を包んでいた布団から這い出る。不意に素破にでもなった錯覚を覚え、隣人を起こさないためとはいえ、自分の姿や行動は滑稽に思えて少しおかしくなってしまった。秀吉は喉の奥で笑いを押し殺し、両腕を立て上半身をそろりと持ち上げてから隣を見てみる。

寝台に横たわる巨躯は秀吉の痩せた身体とは違い、六尺を越える長身に相応しく、揺るぎない強さと逞しさを兼ね備えていた。適度に隆起した胸板や贅肉の一切を削ぎ落とされ、引き締まった腹部や腰回りの重厚な精悍は、単に屈強なだけではなく、獣の俊敏を漂わせしなやかさを損なってはいない。五尺近くもある西洋の剣を片手で軽々と振り抜く腕力や、神出鬼没とも例えられる神速の行軍を可能にする馬術と体力は、幼少より武芸を好み、暇さえあれば水泳や相撲、遠駆けに興じていた青年時代から培われてきたものなのだろう。体格にしても力にしても、その巨躯に棲む精神と魂にしても、秀吉はことごとくにおいて、かなわないと思わざるを得ない。
尾張一国に止まる出来大名にすぎなかった御家の名を、ここ数年の内に国中に知らしめ、乱世を統べる雄の一人として苛烈な天下争奪戦に名乗りを挙げた織田信長という、自身の主の静かな寝顔をじっと凝視して秀吉は、お休みだわと心中でほっと息をついた。

かなわない、と秀吉に思わせるのは、何も主の身体能力や辣腕、慧眼ばかりではなく、質の悪い戯れを好む性分もまた異なる意味でかなわないと困惑する代物で、起きぬけ、これ程までに主の起床に気を揉むのは、正に困惑すべき方の「かなわない」が発揮される瞬間でもあるからだった。

信長とは士官した当初から衆道の相手として褥を共にしている秀吉なので、体を重ねることに別段異存はないのだが、早起きを妨害された挙げ句、他者に主と自身の同衾を目撃されることにだけは異を唱えたい気持ちで一杯だった。そのことで過去にやんわりと苦言を呈した際、信長に寝台の最中でさんざんにいじめ抜かれた経験があったので、下手な苦情は口にできず、どうしようもなくなって、こそこそと逃走する術を選ぶしかなかった。

だが、懸命の逃走も、実は一度として成功した試しがない。原因は分かっているのだ。主が過敏であることも一因だが、それ以上に自身の体は圧倒的な体格差と体力差に挑まれ消耗しきっているため、平素の細やかさとは打って変わり挙止動作から精彩を欠いていることは否めない。力の入らない足腰では、主に気づかれず速やかに逃げ去ることは困難な任務と言えた。
秀吉は信長の端麗な横顔を何度も瞥見しながら、首を巡らし室内を見回す。すると、主が頭を預けている枕の上方に自身の小袖を発見した。裾も袖も短く小さめなので、間違いはないだろう。求めていたものを見つけ、おっと思わず声に出してしまってから、慌てて自分の口を手で塞ぐ。恐る恐る信長を目線だけで凝視し、寝顔に変化がないことを十分に確認してから、ほうと吐息して秀吉は身を起こし四つ這いの姿勢になった。そして、枕元に打ち捨てられていた小袖に手を伸ばし、冷たい布地を掌中に掴み取って、今回は逃げられそうじゃと胸中で上機嫌に呟いた。


刹那、無防備になっていた腰を捕らえられ凄まじい力で褥に引き戻される。


あまりに突然のことだったので、思いきり、うひゃあっ! と喚いてしまった秀吉は驚いて小袖を離してしまい、裸身のまま俯せに寝台へと転がされた。起き上がろうとして首を持ち上げると、腰と肩口を厚いてのひらに押さえつけられ体を起こすことができない。なんとか顔の方向を変え、つい先程まで主の寝ていた場所を視界に映した途端、秀吉は面に諦観を滲ませた。
「何処へ行く」
寝起き直後でも、その低音は極めて明確な語調で秀吉に問う。明らかに苛立ちを含んだ刺々しい声音に返す言葉を失って、陸地に打ち上げられた魚みたく口だけを無闇に動かした。逃げようとしていたことは分かっているはずなのに、わざわざ分かり切ったことを質問してくるあたりが誠に厄介としか言いようがない。秀吉は、いや……っそのっと、いつもの饒舌を忘れて口ごもった。

しまったと思った時には既に捕縛されている。逃げられるかもしれないと思っても、それは錯覚だと痛感させられる。自分の主、信長という男は行動の早さにおいて、各地に勇名を馳せるどの武将よりもずば抜けて優れているのだ。勿論、私事においてすら例外ではない。

捕まってもーたぁ……っと胸中で悄然と呟いた秀吉だったが何とか、はははと軽く笑って
「おはようございます……信長様……」
そう、苦し紛れに言った。
頭上から、はっと短く笑い飛ばす声が聞こえて内心呻く。どうやら主の機嫌は悪くないようだが、逃げようとしたことに目をつぶる気はないらしい。
「何処へ行くか、と訊いた」
重ねて問われ、押さえつけられながらも秀吉は首を振った。
「何処にも行く気などございませぬ! ただ、着るものをと思うて」
あははと作り笑いを交えて答えると盛大な溜息の気配を感じた。微かに苛立ちの交じった溜息にひくりと双肩を僅かに揺らす。機嫌を損ねれば、どのような仕置きを食らうか分かったものではない。打擲される類いの仕置きとは違うのだ。どちらかといえば、秀吉には主が褥で行う仕置きの方が耐えがたい。苦痛によってではなく、羞恥によって。
「よう逃げる猿よ」
信長が面倒そうに呟く。
「そのようなことは……っ!」
慌ててかぶりを振った秀吉の背中に巨躯がのしかかり、もがいていた痩躯はくぐもった悲鳴とともに圧し潰される。更に細い首へと頑健な腕が絡みつき、秀吉は手足をばたつかせて重い巨体の下で喘いだ。容赦なく自身の体に重しする主が、にやにやと意地悪く口角を歪めていることは想像にやすい。
しかし、秀吉はそれ所ではない。重圧に屈しないよう両腕で必死に上半身を支えながら、つ、潰されるっと半ば本気で戦慄した。
「飼い主に不足があるならば言うてみよ」
耳元で他人事のように優しく促す言葉とは裏腹に、言えるものなら言ってみろと嘲笑う威圧を感じる主の低い声に、秀吉は心の中で、まぁた、底意地の悪いことを仰る! と泣き叫んでしまった。
「滅相もない……! ありゃしません! ありゃあしませんてっ」
騒ぎを聞きつけて人がやって来ることだけは避けたい。そのため、あくまでも小声で主の言葉を否定したが、喉元で声なく笑う主の気配を察して、あ、こりゃ言うても無駄じゃなと即座に理解し、これ以上余計なことを口走らないよう閉口した。

不意に全身をさいなんでいた重みがふっと消え、秀吉は肩で息をしてぎこちなく上体を起こした。その瞬間、腹の下に手が滑りこんできて痩躯を軽々浮かせると、畳を返すような手軽さで引っ繰り返され、今度は仰向けに転がされてしまう。すぐさま跳び起きればよかったものを、体を反転させられたことに一瞬茫然としていたため即座につけ入られた。主の体躯がすかさず自身の上に覆いかぶさってくることに気づいた時には、完全に逃げ場がなくなっていることを思い知った。
「では、二度と逃げる気など起こさぬよう、懇ろに愛でおくか……?」
「殿、本当に申し訳なく! 申し訳ないですってば……っ!」
勘弁して下されっとやはり小さく、しかし、必死に喚いて秀吉は狼狽のあまり真っ白になった脳内から、ひたすら詫びの言葉を捻り出した。
「何を勘弁しろと申すか。わしは猿の話をしておるのだ」
なんのことだと言わんばかりに主が口角を歪めた。心底楽しげに低く笑った信長の両手がゆるりと秀吉の手首を捕らえようと伸びてくる。さすがに今度は出遅れまいと自身の両手で主の手を受け止め、非力と知りつつも渾身の力でそれを押し戻した。
「もしや、毛が生えておらぬ猿の話ではありますまいなっ」
信長の手を全力で押し戻しながら秀吉は引きつった笑みを作って皮肉がましく尋ねる。よもや主を蹴り飛ばす訳にもいかないので、固く閉じた両脚で覆いかぶさってくる体躯を必死に拒んだ。
「さて?」
秀吉の問いに双眼を細めて口端を吊り上げた主の片手からにわかに力が抜け、気づいて自身も力を緩めた秀吉に油断が生じた。信長が見逃すはずはない。
太い指先に素早く両手首を締め上げられ、主の掌中てまとめあげられた両腕はそのまま秀吉の頭上で寝台に押さえこまれてしまった。うわっと喚声を上げた時には、もう片方の主の手で脇腹をくすぐられ、閉じていた両脚が脱力して易々と信長の巨躯が割って入ることを許してしまう。
「殿……!」
涙目になって訴えるも
「よく鳴く猿め」
主は目を眇めてくっと笑うだけで相手にしない。
清々しい朝には似つかわしくない体勢を主、自身ともども全裸の状態でとっているという異様な光景、だが、秀吉にとっては正に危機的状況でもあった。このままでは、昨晩の続きを今から始めることになってしまう。さりげなく主の下肢を一瞥して、そんなん無理じゃ! 無理無理! と胸中で激しくかぶりを振り、縋るような思いで、だ、誰かぁっ! ととうとう泣き言を吐いたその時、しずしずと廊下を歩く足音が聞こえてきた。 信長も気づいたらしく障子戸の方を瞥見する。

ほどなく、足音はちょうど主と自身のいる寝所の前で止まり、朝日に透ける障子戸に一つの人影を投じた。恭しく膝をつき叩頭したその影の丁重な動作に合わせて、いまだ童形を止めた長い前髪が揺れる。影のみを追っていても判然と分かる涼やかな物腰に、秀吉は仏の御来光でも拝んでいる気分に陥った。
「おはようございます、信長様」
凜としていながら柔らかい響きを失わない、耳に心地よいその声には聞き覚えがあった。
森蘭丸である。

蘭丸は信長が重用する小姓の一人で、見目の麗しさもさることながら、知力、武力にも富み、性情も極めて温厚で純朴なため、主の用いる小姓達の中でも際立っている青年だった。障子戸に映る青年の影に心底救われた気がして秀吉は脱力した。が、肝心なことを思い出して、うわわっと慌てて喚声を上げる。
「開けんで下され!」
悲鳴に近い切実な叫びに蘭丸の影が頭を上げた。秀吉様……? と訝しげに尋ねる語調には、主人の褥に主人以外の何者かがいるということを全く予期していなかった驚きが確かに含まれている。秀吉は自ら名乗り出るような真似をしたことに激しく後悔したが、障子戸を開けられれば、主と自身の痴態を目撃されることになってしまう。見られるよりはましだと割り切る他なく、同時に、蘭丸程細やかに気遣いの行き届いた小姓が、断りもなく主君の寝所を覗き見るような真似はしないはずだと思い至って、声を上げたことを更に悔やんだ。動揺と狼狽に混乱した頭では、平常のように思考が機敏に回らない。

秀吉は障子戸に映る蘭丸の影をはらはらと凝視する。開けないでくれと請うたものの、信長がどかない限り現状が改善される見込みはない。恐る恐る目だけで瞥見すると、無表情だった信長の顔が鼻先でにっと笑う。秀吉は瞬時に主が、開けてもよいと言い出すであろうことを悟って青ざめた。殿っと小声で呼んで細い首を左右に振ったが、ふんと鼻で笑われる。

最早迷っている暇はなかった。

唇を噛み、心中で呻いた秀吉は意を決して、のしかかってきていた主の腰に両脚を絡めて挟みこみ、自身の体をなんとか持ち上げる。そして、今正に言葉を発しようとした信長の口唇を自身のそれで塞いだ。これには驚いたのか、信長が些に目を見開いたのを目端に捕らえて、ああっ、何やっとんじゃろと自身の行いがひどく恥ずかしくなった。いたたまれなさも加わって、すぐに離れようと頭を僅かに引くと顎を掴まれ引き留められる。

体を浮かせるにも限界で、脚を解いて寝台に背を預けた。主の身体が少しだけ前屈したのを感じて、ひくりと肩を揺らす。呼吸をせき止められた息苦しさに双眸を固く閉ざした秀吉は些に身を捩った。新鮮な空気を求めて体が苦しみを訴えている。寝台に爪先を立て堪らず顔を逸らすと、両手首を束縛していた手が外れて、代わりに両頬を厚いてのひらで固定された。
おもむろに息が軽くなる。
やんわりと離れた主の唇から逃れるて、滞った呼気を溜息とともに吐き出した。それなのに、すぐさま口づけを見舞われ、んっと小さく声を上げて体を引きつらせる。薄く瞼を開くと主の鋭利な双眼が自分を熟視していた。先程まで自分を揶揄する愉悦に輝いていた鉄黒の瞳が静けさを湛えて、その穏やかなだけではない静謐の奥底に炎とよく似た激しさと強さがあることを知る。逃げるな、と声なく命じられたことを理解し、秀吉は主の肩に手を置いて胸中で苦笑した。


もう既に、逃げたくとも逃げられない、と。








危うく蘭丸がいることを失念しかけていた秀吉の耳に

「信長様」

当の小姓の鋭い声が響いた。

はっとして首をすくめた秀吉は主の唇から逃れて、横目で渋面の信長を非難がましく凝視する。しばしの沈黙の後、とうとう信長は渋々巨躯を起こし、障子戸を隔てて青年に、待てと淡泊な語調で端的に返した。
主が身を起こす寸前、耳元で確かに聞こえた舌打ちと溜息に秀吉は身を引きつらせたが、延々と続いた攻防戦からようやく解放された痩躯をぐったりと褥に横たえて、疲れたんさ……と心中で漏らす。


そして、目の下に集まる熱を誤魔化すようにしかめ面を作り、めっさ危なかったわと声なく呟いてしまった。